2010年9月21日火曜日

為替介入についてのメモ

周知の通り、9月15日(水)に政府は東京外国為替市場で円を売りドルを買うという形で為替介入を実施した。為替介入が実施された後は82円台だった為替レートは85円台まで急落し、その後85円台半ば~後半で推移している。
確かに3円程円安にふれたという事実からすれば、為替介入には一定の効果があったと言えるのかもしれない。だが、85円台半ばという水準はほぼ1ヶ月前の8月半ばの水準に等しく、ゆきすぎた為替レートを是正するという本来の目的からすれば未だ不十分であると言えよう。
勿論、為替介入の効果を現時点で結論付けるのはいささか無謀だと思う。以下では簡単に為替介入についてまとめつつ、判断の際の視点として重要だと思うポイントについてまとめてみることにしよう。
1.為替介入の仕組みについて
現在の為替介入の仕組みについては既に各所でまとめられている。一言で言えば、現在の仕組みでは自動的に不胎化となってしまいマネー(円)は増えないため、介入が及ぼす効果は限定的だろう。ただ、決済のタイミングもあるため、日銀が保有した円をロールオーバーすることで当座預金残高増という状況が短期的に生じることはあり得る。そして、取引の各過程に携わる主体のポートフォリオが変わるため、変化したポートフォリオを再調整(リバランス)することで、資産価格や金利は変化する可能性もある。但しこの効果はプラスもマイナスもあり得るので現時点で明確な効果がありとは言えないだろう。
余談ながら、為替介入自体は73年のフロート制移行後度々行われてきた。この意味で別段特別な政策ということではない。勿論、金融政策で議論される伝統・非伝統政策とも別物である。更にポートフォリオリバランス効果自体も伝統的金融政策・非伝統的金融政策に関わらず生じるものだ。今回の為替介入に特別な意味を付け加える議論もあるのかもしれないが、そうではないことを言い添えたい。
2.為替介入の効果を判断する際のポイント
私見では、a:介入の規模、b:対外要因を含む環境状況、c:金融政策の連携、の三つが為替介入の効果を判断する際のポイントだと考える。
まず介入の規模については初日(15日)で2兆円程度という規模は過去最大規模である。今後については不明だが、円売・ドル買介入を行った99年、01年、02年の介入総額が3兆円~4兆円の範囲内であることを考えれば、上々の規模と言えるだろう。今後を注視したいところである。
次に対外環境についてだが、99年、01年、02年の場合はドル安の地合で、ドル高を是認する環境には無かったと考えられる。ドル高是認環境もしくは米国金利が高まるという環境が加われば、介入の効果は高まるだろう。
そして最後に金融政策との連携である。99年、01年、02年の場合は不胎化がなされており、金融政策との連携はなかった。今回の為替介入につき日銀は「放置する」と語っている。現状の仕組みが自動的に不胎化となる事を考えれば、今回も同様の行動を日銀はとっているということだろう。
さて、円売・ドル買介入で重要な経験は03年~04年の溝口・テーラー介入の経験だろう。上の三つの視点に即して述べれば、介入規模は32兆円、対外環境はドル高容認環境、金融政策との連携は、偶然にも量的緩和政策が実行されていたこともあり、得られた円の一定割合は吸収されずに市中に残り、それがマネー増をもたらすことになった。つまり、3つのポイントを満たした事で一定の効果があったということだろう。
3.為替介入を「ビックイベント」とするために何が必要か
理屈上、円売・ドル買介入ならば、我が国は際限なく円を発行し介入を行うことが可能である。理想としては、溝口・テーラー介入の規模と同程度の介入を行うとともに、ゼロ金利政策への移行、日銀券ルールの撤廃を行った上で、2%~3%のインフレ率にコミットするインフレーションターゲット付き量的緩和政策を行ってほしいところだ。
長引くデフレから脱却するには、政府・日銀の「政策のルール」が明確に変わった事を人々が認識することが重要だ。為替介入というビックイベントが行われた現在、求められるのはビックイベントを梃子にしてレジーム転換をはかるために金融政策を駆使すること、それを通じてデフレから脱却することなのである。