早月刊誌は12月号が刊行される状況となった。過ぎ行く月日の速度が増しているという思いが募る今日この頃。さて、2010年の日本経済も様々なことがあったわけだが、2011年に向けて現代の課題・視点ともいえる話題をどう見たらよいのだろうか。Voice12月号の特集「激突対論!2011年の日本経済」は、対論という形を取りながら同じテーマに即していくつかの視点を提供してくれる。既に内容はご存知の方が多いと思うので、感想を混ぜながら簡単にまとめておきたい。まずは竹森俊平氏の論説「漂流を始める世界経済」から見ていこう。
竹森氏の見立ては、次のようなものだ。まずユーロ圏。今年の半ばあたりからPIIGS(ポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、スペイン)の一国、ギリシャの債務危機という形で表面化したが、ユーロ圏の危機が完全に終わったわけではない。危機は先送りされたのであり、2011年にはアイルランド政府が国債の借り換えを迫られることから生じる危機、2012年はギリシャが債務の減免を要求することにより生じる危機である。そしてPIIGS政府は急進的な緊縮財政を打ち出している。そしてドイツやフランス、オランダ、イギリスといった諸国も財政緊縮策を打ち出す(している)。ECBも例外ではない。この意味で欧州発のリスクはありえる。ただ財政再建路線を規定する経済の風向きが又変われば、景気刺激策を発動するだろうというものだ。では、問題はどこなのか。竹森氏の見立ては米国が二番底の懸念を最も秘めているということだ。理由としては、財政出動に伴うビルトインスタビライザーが機能不十分であること、オバマ政権が行った巨額財政政策が今年後半からほぼ効力を持ちえなくなること、ブッシュ前政権が行った所得減税が今年末で終了すること、といったものが挙げられる。
自分は今年前半にはオバマが打ち出した経済対策の追加策が何らかの形で出されるのではないかと思っていた。なぜかといえば、オバマの経済対策は今年前半に最高潮を向かえ、その後は大きく減少することが明らかだったが、未だ経済の回復は不十分であったためだ。しかし欧米諸国としてみたとき、株価、生産といった分野の回復度合いが(緩慢とはいえ)最も力強いのは米国であることには留意しておくべきだ。この背景には日頃脚光を浴びがちな金融政策に加えて財政政策もある程度の影響を及ぼしているのではないかと思う。結局、失業率の高止まりが続く中で、財政政策パート2は発動されていない。QE2が話題になる一方で、QE2の効果に否定的な経済学者・エコノミストがFRBバーナンキ総裁に質問状を送ったことが話題になったが、総需要の停滞が明白な中でなぜ財政政策が発動されないのか。
その答えは「政治」だと竹森氏は言う。周知の通り、民主党は中間選挙で大敗し、共和党の議員が多数の議席を獲得した。彼等共和党議員の経済思想が問題ということだ。共和党への支持は国民の意思でもある。「政府の肥大化は悪」とする国民の意思だ。だが、竹森氏が言うとおり、大規模な財政政策と金融政策が無効だったということではない。仮にこれらの政策を行わなかったら、米国は今の経済状況を維持しておらず、世界金融危機は最悪の局面に向かっただろう。だが、高止まりが続く失業率や緩慢な回復に苦しむ人々にとってはその事実が届かない。
竹森氏は、当初の危機が大恐慌ほど酷くはならないとみなされた根拠として二つの点を挙げる。一つは現代においてはケインズ的な景気対策の必要性が認識されているため、失敗は繰り返さないであろうということ、もう一つ、保護貿易戦争は発生しないであろうということだ。この二つの点が生じるか否かが、来年の世界経済の先行きを占うという意味で重要な視点であろう。
そして更に付け加えると、財政赤字が累積する局面で、更なる財政出動が求められる場合に、先進各国の政府がどのような対策を行うのか、何もしないのか、はたまた増税を行うのか。過去の経験では、以上の局面では財政政策と金融政策の一体化が必要だと告げている。そしてラインハートとロゴフの研究からは、債務負担の悪化が深刻化するのは、債務負担を恐れて経済政策を怠った結果としての低成長に基づくとの結果が得られている。このような知見がどこまで生かされるのか、果たしてアクセルを踏み込む勇気が政策当局にあるのだろうか。更に世界各国で明らかになってきている債務悪化の特徴は、新興国で以前話題になった対外債務ではなく対内債務の拡大であるという点は新しい傾向かもしれない。債務負担が拡大する局面で何をするかといった議論が来年は更に本格化するだろう。先進国の経済政策は加熱気味の新興国の政策対応と互いにリンクしながら、国際機関等の役割や規制・政策の見直しといった議論の深化にもつながるはずだ。竹森氏が言うとおり、2011年は世界的に政治の季節になるのではと思われる。
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